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Posted by 京つう運営事務局  at 

2010年10月25日

星が瞬いていた

最初に手に取ったのは、オレンジと紺のレジメンタル。
スーツやシャツとの相性は良い・・が、これではオフィスで目立ちすぎる。

あれこれ手に取ってみて悩んだ挙句、
無難なセンのネクタイを締め、オレンジと紺のストライプは鞄に入れていくことにした。

靴は黒のプレーントゥ。
ズボンの裾を深めに折り返しているから、ここは迷わず、シンプルな靴を選んだ。


靴を磨いて、ダイニングに戻る。
上着に袖を通しながら、すっかり冷めてしまった珈琲を口にして黒いダイニングテーブルの上で朝刊を広げて、簡単に経済面をチェックした後、すぐに折り畳んで鞄に入れた。

鞄のなかには、レジメンタルのタイ。
それと、カシスレッドの小箱も忘れずに入れる。

時計を見た。 7時45分。
そろそろ時間だ。
充電器から携帯を取り上げる。

僕の携帯には、真新しいストラップが付いていた。
黒い革ベルトの先に、もう一つの銀細工が揺れる。

かえでの葉。
これは、僕が持つために注文したものだ。

僕は、ベルトの先で揺れる銀色の葉を手の平で受け止めて・・
そして、上着の内ポケットに納めた。

スーツの上から、胸の辺りを軽く押さえる。

貴女をいつも胸に抱いていたくて。 だから、ストラップにした・・  
なんて言ったら、貴女はきっと笑うだろうね。

20時半。
ようやくPCの電源を落とすことが出来た。

先週廻った取引先の幾つかから、今回のプロジェクトに参加したいという申し出が入って、
部長や、執行役員へ、経過の報告。
申し出のあった企業へのケア。
オンライン開設に向けて、システム部との打合せ。

他にも、例のスーパーマーケットの件。
いつの間にか、担当がベルサーチから僕に変わっていて。
今後の対応を決める会議に出席。

自分の席に戻って来たときには、既に19時を過ぎていた。

急ごう。 約束の時間に遅れたくない。
僕は、まだ残っている部長に声を掛けて、オフィスを出た。

照明の落ちた廊下を歩きながら、ネクタイを外す。
鞄からもう1本のタイを取り出して、無人のエレベーターの中で、それを素早く結んだ。

ビルの外に出て、空を見上げる。
冬の夜空は、美しい。
どこまでも深い漆黒の世界に、星が瞬いていた。


貴女に逢ったら、一緒にこの漆黒の空を見上げよう。

貴女に逢ったら、あの青の風景が、どれほど美しかったかを聞かせよう。
貴女に逢ったら、煌く陽光が、どれほど優しかったかを聞かせよう。

そして、ふたりで、紫苑の花を眺めよう。
喜びを、いつまでも記憶に留めておけるように。
貴女と出逢えた喜びを、いつまでも忘れないように、紫苑の花をながめよう。  


Posted by spacecp203  at 17:14Comments(0)